2026年1月、塩山牛奥にて、外川さんに剪定を教えていただきました。農業の先輩・鹿田さんと一緒に学ばせていただいた一日の覚え書きです。
※ 外川さんから伺ったお話を私たちなりに咀嚼してまとめたものです。誤りがあれば私たちの理解不足であり、外川さんの教えそのものは、もっと細やかで実践的なものでした。
目的と基本方針
その畑で目的とするぶどうを、ポテンシャルを最大限に活かした収量で得ること。剪定にはセオリーがあるけれど、一通りではない。実際の枝の様子に応じて、どの戦略で剪定するかを選ぶ――その日の畑では、何度もそういう判断の場面が出てきました。
酸度と健全性
- 酸度は 8.2 を目安にする
- 酸がないと雑菌が増える
- pH が高いと亜硫酸を多く使うことになり、糖度・香り・骨格のあるワインができにくい
収量と品質
- 剪定によって収量と病気の出方が決まる
- 葉の蒸散量・日陰の多さで糖度のばらつきが出る
- 一定の品質を保つには「酸が抜けている場所をなくす」「房ごとの熟度を揃える」
- ピオーネは色・ピラジン・健全な実を最大限に取る
樹形と枝の役割
長期的には樹形をどう作るかを考える必要がある。ただし樹形だけに着目すると収量が減ることもあるので、手段の目的化はしないこと。剪定の前にまず、去年の答え――この場所の実付き、着色の具合――を思い出すところから始める。
主枝の系統
- 第一主枝(太い)/第二主枝(地面に近く成長しやすい)
- 芽の配分は 第一:第二 = 55:45 程度(あくまで感覚)
- 第一主枝から伸びるのが第三主枝、第二主枝から伸びるのが第四主枝
- ドブヅル(太い徒長枝)は萌芽率が悪い
内枝・外枝
- 内枝:樹勢が落ち着き、実がなりやすい
- 外枝:樹勢が強くなりやすい
- 主枝から最初に出る枝を「内」と考える
- 良いぶどうは、良い樹形から生まれる
剪定の強弱
- 強剪定 → 樹勢が強くなる
- 基部に近い → 樹勢が強くなる
- 弱剪定 → 樹勢が落ち着く
- 節間が広がっている先、髄が大きい枝は良くない
避けるべき切り方
- 鋏枝
- 先端だけ残す切り方
- 車枝
- 並行枝
- 越し枝
- 内枝・内枝が並ぶ配置
重なり部分はカイガラムシの住処になりやすい。ヒント:先端は一番強くして、栄養分を引っ張ってもらう。
枝の更新と残し方
- 結果母枝を3本残すと芽数が1.5倍で多すぎる
- 3本残すなら「内1本/外1本/先1本」
- 負けている枝を落とす
- 基底芽・陰芽は、明るくすると出やすい
- クロヅルから出る確率は約40%
- 「1・4・7」で残すのが定番(幼木は除く)
- 第一と第三の枝を揃え、第二主枝を軸として作る
- 混むのは 4 と 2 が交わる場所
芽数を置く理由は、葉の裏から蒸散して陰圧を作るため。
切り口の処理
- ホゾはアリの巣になりやすいので切る
- 悪い枝はワックスが弱い
- 先端もなるべく内側に残す
- 切り口の1.5倍のホゾを残す
- トップジン:木工ボンドを1.5で混ぜると乾燥しやすい(保管層も入り込む)
施肥と樹勢管理
- 施肥はマネジメントが要
- 木はクローンであり、年齢を考慮する
- 窒素を入れて無理をさせ、剪定で弱く育てる
- 窒素飢餓はさせない
- 乾燥リスクに注意
- 仮剪定を増やして楽をしない
生理・理論
- シカバックの本:管が集まり系統がある/根の向きで系統がわかる/皮をめくると黒い点で樹液の流れが見える
- パイプ理論(白菜の葉でわかりやすい)
- 不定芽はダメになったときの保険として残すこともある
- 頂芽優勢:オーキシン作用で先端が伸びようとする。切り返し部分もオーキシンが出やすい
品種別
- デラウェアは強剪定で育てる
- 幼木は「1・4・7」の規則に従わない
- シャインマスカット:長梢剪定は奇形が出やすいがラグビーボール型にしやすい/短梢剪定は房がバラついて三角形になりやすい
- X字の方が収量は取れる
外川さんの流儀
- 外川さんは芽かきをしない(葉面積を残したい/来年選べる枝が減るため)
- 追い出し枝:その年だけの収量を見込んで入れ替える
- 登熟不良を避けるため、遠くしすぎない
- 枝を残すときは必ず理由をつける
- 枝を選んだ後は芽数を過度に気にしない
- 樹を太くしすぎない(太いと養分を多く吸う/細い方が剪定が楽/7〜8年で切り替える方法もある)
その他のメモ
- ハサミはウイルス媒介の可能性は低い
- ラウンドアップは根を枯らす
- 切り口を揃えるのは理想だが、現実的には難しい
- 樹勢が弱まると不定芽が出やすい
- 内外の整理は先端から揃えていく
- 先端は太く、芽数多め。根元は弱剪定で出過ぎないように
- コディット剪定の切り方レクチャーあり
- 用語:バゲット、クルソン、ヌ、カンビニウム など
もっとも残った言葉
剪定にはセオリーがあるけれど、一通りではない。
実際の枝の様子で、どの戦略で剪定をするかを選ぶ。
麻雀のようなもの。
系統を意識する。樹液の不均衡をなくす。切り口から整えていく。
基本を知った上で、目の前の枝を見て決める。
その積み重ねが、毎年の畑になっていくのだと思います。